「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.4 アメリカでの悪夢その2

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今週はついにRising Japan Tour 2015の東京ファイナルが、
土曜日に迫りましたね!

今日も前回に引き続き、ライナーノーツを綴ります。

過去の記事はこちらです。

THE JOURNEY OF RISING  〜アルバムの7つの隠れたストーリー〜

「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.1 〜僕にとってのアルバム制作の真意〜
「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.2 〜THE LIGHTから INTO THE LIGHTへ〜
「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.3 〜アメリカでの悪夢〜

ブライアントのレコーディングを終えて
ダラス、そしてフィラデルフィアを経て、アメリカの最終地はニューヨーク。
グラミー受賞アーティスト、ゴードン・チェンバーズとのレコーディングが待ち受けていました。

この話は、Naoとニューヨークに同年の2014年3月に訪れた時に、
彼に打診をし、帰国後話を詰め正式にオファーとなりました。

ゴードンには、2013年のNAOのデビュー前のショートツアーで
初めて会うことになりますが、正直言って
僕にはレジェンド的な存在。

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このアルバムは自分がレコード屋でCDを買って、
CDが擦り切れるくらい好きなアルバムだったのです。

あのGordon Chambersと仕事ができる。。

僕は会う前から彼への尊敬は絶大でした。

依頼したかった最大の理由は
彼のようなスーパーソングライターでありプロデューサーに
NAOを全く違うレベルまで連れて行って欲しかったのです。

強いリスナーとしての憧れもあり、
彼への期待は一入でした。
そこが一つの壁になるなんて当時は予想もつかなかったのです。

今だから話しますが、僕が去年の3月にNaoと制作の依頼をした時には、
セントルイスに来てもらい、ブライアンのメンバーたちとの
バンドのレコーディングをすることを快諾してくれていました。
そしてニューヨークでは、彼とのDUO曲とボーカルのみを録音すると
僕は決めていました。そのようにもちろん旅程も手配しました。

これは、セントルイスのエンジニアとスタジオのクオリティをしっかりと
把握していたため、プロダクションのレベルを担保し
アルバムの統一性を保つためにも僕の配慮でした。

しかし渡米が近づくにずれ、ゴードンの意向は変わります。

「やっぱりニューヨークで録りたいんだ。」

なんとか交渉を成立しようとしましたが、
彼のサウスアフリカへの出張という理由も含めて、
最後はニューヨークでやりたいという話をしてきます。

「僕の知っている最高のメンバーを呼ぶから信じてくれ。ニューヨークの最高のメンバーを集めるよ。」

プロデューサーとしては、最初に意向に沿って欲しいと、
自分の意思を貫こうとしました。
最初の彼のニュアンスは

「ニューヨークでもいいか?」

ということだったので、僕はいやセントルイスでとりたいと率直に伝えました。
それはアルバムプロデューサーとして、プレーヤーの特性やスタジオの音、
特質を理解し、アルバムとしてのサウンドの統一性を理解しつつ
想像しているクオリティを実現するためです。

やり取りをしていくうちに、彼がニューヨークでとりたいことは頑なであることが
浮き彫りになります。

これ以上交渉したら、もうこの話はなくなる。

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ニューヨークでの滞在も決まり、ホテルも確保し、航空券を確保した後のことでした。
制作費は当たり前のように膨らみます。
僕はここで一つ賭けをすることを余儀なくされました。

ニューヨークでレコーディングをする。

そして具体的な曲の話が、アメリカツアーと同時期に始まりました。
まずは曲紹介をしましょう。

I Need You

アルバムにはゴスペルをベースとした、
1曲Duoソングを入れたいと考えていました。

コンセプトはNaoの母に送る感謝の歌。
ゴードンといえば、ゴスペルをベースとした
R&Bのプロフェッショナル。ホイットニー、ヨランダなど
数えたらキリのないほど曲提供をしています。
なので必然的にお願いをすることにしました。

ゴードン・チェンバーズだからこそできる。
この歌詞と美しい旋律。

素晴らしいの一言。

Rise

この曲の収録は最後の最後まで頭を悩ませました。
プロデューサーとしてはアルバムを構成する要素として想定をしていなかったからです。

アルバム全体の統一感や魅力、曲順や雰囲気など綿密に設計した自分にとっては、
正直に言うと必要のない曲だったのです。

ゴードンに依頼したのは合計2曲。しかし終わってみると3曲になりました。

ポジティブな視点から見る未来の曲。つまりDreamsのような曲を期待し、
彼に詳細にリクエストを送って話しておいたつもりが、
最初に送られてきた曲はこの曲。

彼の思いを聞くと、

「彼女と3月に話した時の僕のインスピレーションはこれだったんだ。」

レコーディングは9月。3月からNaoのマインドは進化し成長していました。
またこのネガティブな視点からの脱出という曲調
皆さんご存知の通り、最高の曲なのです。

但し歌詞はこのアルバムに含まれるものとは真逆になりました。
歌詞の中には、虐待・妥協などかなりネガティブなキーワードが含まれています。
そこから眩しいくらいに光り輝く曲後半の盛り上がりはもう最高であり
ゴードンの力に驚かされるばかりでした。
レコーディングは9月。ゴードンと話した3月からNaoのマインドは進化し成長していました。
またこのネガティブな視点からの脱出という曲調をすることは
僕の頭のなかにはなかったのです。

結果、ボーナストラックとして起用し、
今回のツアーでは重要な役割を果たす曲になっています。

意味がわからない!と思う方もいるかもしれませんが、
最初に作ったこのアルバムのコンセプトを見返してくだされば、
きっと理解をいただけると思います。

Dreams

この曲は皆さんご存知通りの、アルバムのリードシングル。
ゴードンからこの曲が出てくるまでは、かなりの時間を要しましたが、
リクエストに最も近い形の曲を最終的には提供してくれました。

この曲が送られてきたとき、僕らはダラスにいて、
聞いた瞬間に感動したことを今でも忘れません。
底知れぬワクワク感があったのです。

僕、そしてNaoを応援する関係者達が
Naoに見ているものは、日本のソウルミュージックシーンの夢。
音楽の元気な時代にもしNaoが生まれてきていたら、
こんなに苦労すること無く、スターダムにのし上がっているのではないか
と思っています。アメリカでの実績や彼女の歌の力、
見る人が見たら、当時の音楽を大切にする人々であれば、
きっと引く手あまたなのではないかと思います。

難しい音楽時代に、彼女が自らの力で未来を切り開いていく姿を
皆さんに見せていくこと。それが2010年代の新しい僕達の音楽の見せ方。
オリコン・チャートや紅白を目指す時代から
世界のステージに大きくかけるビジョンを僕たちは
この曲を時代にひっかけて世に送り出しました。

Naoの夢が叶うときは、僕らの夢が叶うとき。

 

このあと書くことは、自分が一方的に感じることもあることや、
公平性に欠ける文章になると思います。

だから一部の方に公開をさせていただこうと思います。

 

 

※内容をカット

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こんな理由で、DreamsやI Need You、Riseには

死ぬほど苦労をしました。想定していた何倍もの労力をつかい、
まさに地獄の日々を送りました。

真剣勝負中の真剣勝負。気持ちは穏やかではありませんでした。

しかし制作を終えて、なんとか自分の目指すクオリティまで到達し、
リリースを経たあとには、その気持ちは和らぎました。

なぜなら彼のボーカルディレクションの力、
作曲した曲の力は本物に違いないからです。

マスタリングを終えたあとにはこの曲は
より多くの人に愛されることは間違いないと確信ができました。

彼も実際できたものにはとても喜んでくれたし、
リリース後に行ったB.B.Kingの公演の際には僕の苦労話はもう後の祭りで、
一緒に戦った仲間のような感覚で話をすることができました。

こうして悩みながらも彼がくれたチャンスに真剣に向き合い
ぶつかったからこそ、結果は出たのだとおもいます。

しかし、今回に関しては終わりよければ全て良しでは
ありませんでした。

この出来事は結果よりも工程に
重要な部分があるとおもっています。

このレコーディングがきっかけで
自分の役割、考えを根本から見直すことになったからです。

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自分の判断は果たして正しかったのだろうか。
自分の存在っていったいなんなんだろうか?

 

僕はある意味、The Lightの時の同じ過ちを繰り返したのかもしれません。
Gordonに依頼した時、どこかでこう思っていたのです。

彼とのコラボがうまくいけば、
きっとナオは僕のようなまだキャリアの浅いプロデューサーではなく、
彼女の才能をもっともっと100%伸ばしきることができるのではないか?

僕が介在しなくてもきっと彼のような
ネームバリューがあるアーティストと仕事をすれば
全てを任せ、どんどんと新しいものができるのではないか?

自分はプロデューサーとは名乗っているが、
本当はもっともっと彼女に適任の人がいるのではないだろうか。
こう思っていたのです。

つまり自分の力への疑いがあったのです。
グラミー賞の受賞者だから間違いない。
アレサやビヨンセもやってるから間違いない。
自分より正しいのではないだろうか。

Nao Yoshiokaをもっともっと成功させてくれる
揺るぎない実力がある人がいたら託したい。

自分が手がけるにはNaoの才能は身に余るのではないだろうか。
という疑問がやはり頭のどこかに潜んでいて、
出てきていたのです。

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アメリカ最終地、ニューヨークでは前述した通り、
僕はレコーディングに立ちあえませんでした。

自分がアルバムプロデューサーとして、
想定外の事態に陥ったまま、
日本に帰国することになりました。

日本に帰り、アメリカのレコーディング音源の
ラフミックスが送られてきた時、
疑問は絶頂になりました。

どんなときでも誰が相手だろうと、
自分を信じきり、ビジョンを突き通すべきではないだろうか?

こんなことを考えながら、考え切る暇もなく
オランダへの渡航となりました。

頭にこびりついたこの考えは、
オランダで浮き彫りになり、
このあと早いタイミングで
完全に直面することになったのです。

オランダに続く。

過去のライナーノーツはこちらから

THE JOURNEY OF RISING  〜アルバムの7つの隠れたストーリー〜

「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.1 〜僕にとってのアルバム制作の真意〜
「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.2 〜THE LIGHTから INTO THE LIGHTへ〜
「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.3 〜アメリカでの悪夢〜

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