「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.3 アメリカでの悪夢

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Rising Japan Tour 2015札幌公演を水曜日に終えて、
明日でファイナルまであと1週間。

ファイナルまでブログ更新していこうと思います。

今回は3話目少し時間が空いてしまったので、
下記のブログも併せてご覧ください。

THE JOURNEY OF RISING  〜アルバムの7つの隠れたストーリー〜
「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.1 〜僕にとってのアルバム制作の真意〜
「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.2 〜THE LIGHTから INTO THE LIGHTへ〜

この章を書くにあたって、
まずはもう1年以上前になるアメリカでの制作を思い出そうと
アメリカで僕が書いたブログを見返してみることにしました。

ところが探し始めてみると、、、

ツアーについて書いているものがほとんどない。。。

下書きは何個か見つかったのですがどれも中途半端な状態。
体力、精神、双方ともに極限だったという覚えがあります。

過酷だった理由は主に二つ。

一つめは移動、作詞作曲、そしてライブにレコーディングと、
慣れない体験の繰り返しを限られた時間とお金で
やりくりしなければいけなかったこと。

二つめの理由は、後半あたりに書くことにして、
まず一つめについてお話していきます。

僕たちが当初予定していたツアーは実は3週間弱。
レコーディングとライブを兼ねた
セントルイス、ケンタッキー、ダラス、フィラデルフィア、ニューヨーク
という5箇所の旅でした。

しかし、渡米一ヶ月前にある事件が起こりました。

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それは9月初旬から向かうはずのアメリカツアー最初の都市、
Brian Owensが住むファーガソン(セントルイス)での出来事。

次々にニュースは広まり、この事件は暴動や略奪へと発展していきます。
僕たちは法人として、渡米する判断を煽られます。

延期するべきか、否か。

そんな中、ブライアンから連絡が入ります。

「ファーガソンは安全だ。おれは市民のためにフェスをやる。
だから早く来て、協力してくれないか?」

延期どころか、早く来てフェスに参加してくれというオファーだったのです。
9月2週後半あたりからの渡米予定を急遽変更して、
僕たちは暴動の冷めやらないファーガソンに向かうことになりました。

その時の記事がこちら。
「BRIAN OWENSがHEAL FERGUSONでみせてくれたアーティストの真の力」

 

急な予定変更でしたが、結果的には予定より一週間早く入ったことが
アルバム制作を大いに助けます。

僕たちは9月5日に渡米、8日にイベントに参加し、
10日〜13日の4日間、みっちりとBrian Owensと
ライティングセッションをすることができたのです。

実は今回アメリカでレコーディングに立ち会うのは初めての経験。
前作は僕たちはレコーディングには参加せず、
すべてのディレクションをBrianに任せました。

そしてライティングセッションも同様に、
前回はカヴァー中心且つ、ブライアンに作詞作曲を
してもらいましたが、今回は曲もすべてはじめから一緒に創る
という新しい挑戦にあふれていました。

渡米前から彼とやり取りをしていたのですが、
やはりスカイプでは限界があり、中途半端な状態での渡米になりました。

十分に曲の構想が練れてない中で
レコーディング日程は決まっていて迫っている。。
このプレッシャー。

本当は渡米前にある程度固めてから臨みたかったレコーディング。

そうして僕たちは正しい判断をしたことに現地で気づきます。
ファーガソンのイベントのために早く入らなかったら、
この3日間がなかったらいったいどうなっていたんだろうと思うと冷や汗ものです。

 

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Brianの家で行われたライティングセッション。
今回はそもそも、BrianとNaoが曲を共作をすることが前提でした。

Brianには3曲プロデュースをお願いしました。
ただし、すべての曲にはオーダーがあり、
僕がアルバムプロデューサーとして
こういう曲をお願いしたいという、
ガイドラインを作っていました。

ライティングをしているときは僕は一歩引いて、
本当にブレそうなときや、重要な時以外は口を出さず、
本人たちのやりとりを常に観察していました。

スムースに進行し、これはかなり良いなと感じた矢先、
試練が待っていました。

「LIVE」という楽曲に差し掛かった時です。

 

Naoが本当に伝えたいこと、それを自分が正しく感じる
曲調にすることを実現すべく、Naoは主張を続けますが
なかなか伝わらない。

そしてBrianが提示してくれたものは、意外にも少しPOP路線。

「せっかくだからNaoの可能性を広げてみないか?」

コード進行もBrianが普段使うようなものではなく、
初日はすこし咬み合わないやりとりが続きました。
Brianはこの初日に、Naoに言い渡します。

「Nao、このセッションで君は僕のことを嫌いになるかもしれない。
でもそれも必要なプロセスかもしれない。」

Naoの初日の感想をきくと、とにかく自分がやりたいことが
うまく伝わらないし、やはりBrianもアーティストだから
自分を出してくるし、なんとか自分がやりたいことに近づけたい
ということでした。

悪夢はここから始まります。

言語の壁はもちろん、それ以前に彼女は人に物事を伝えること自体が苦手です。
ブライアンとライティングセッションが終わったあと、
ホテルに帰り、どうやったら伝わるかの対策が始まります。

対策というのは、曲のコンセプトを再度ヒックリ返して詰めることや、
歌詞を書くこと、メロディを考えることなど多岐にわたり、
迫り来るレコーディングに、寝る暇もないほどのタスクが舞い込んできました。

セントルイスでの生活はほぼ2、3時間の睡眠と、
それを追い込むように公演のための移動に苛まれました。

ブライアンが勧めてくれた彼の家の近くのHOTELは空港近くにあり
あたりは閑散としていて移動手段はほぼ無し。

外出といえば来る日も来る日も遠征、リハーサル、ライブ、ライティングセッション。

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自由を完璧に奪われた気分でした。

こんなことを想像していなかった僕自身は
HOTELの無線環境が悪かったというのもあるのですが
日本との連絡がなかなか取れないような状況になったのです。

とにかく、なんとかここをくぐり抜けたい。。という思いが印象的でした。

しかしこの時の苦労こそが、後に控えていたレコーディングにつながったことは、
曲が生まれたあとに、納得できました。

外界を遮断するというか、ほぼ隔離されたような状態のなかで
とことん曲を突き詰め、自らを追い込み、
恐れること無く意見の交換をし続けました。

お互い譲らないところは譲らないスタンスではありつつも、
「良いものを創る」という見据える方向は常に同じ。

しっかりと準備ができた状態で挑んだスタジオワークは
ご褒美のような感覚でした。

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ゴールがしっかりと見えているため、楽器の録音はスムーズに。
そしてセントルイスのこのショックウェーブスタジオの部屋の音、
プレーヤーの腕、エンジニアの腕、すべての条件がそろっていました。

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ドラマーのロブ、ブルーノート東京に来てくれたメンバーの一人。
最高の左利きドラマー。ソウルミュージック、ゴスペル、
僕は彼ほどエモーショナルかつ正確無比に、
そして往年のソウルドラマーの匂いを残した
ドラマーはまだ出会ったことがありません。

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楽器のレコーディング初日は同じくブルーノート東京にて来日し、
SWEET SOUL RECORDSからソロアルバムも出している
マイケル・ヒックスも飛行機で駆けつけ
予定していた日数よりも早くに終了。

順調に見えたレコーディングですが、
もう一つの試練がNAOには待ち受けていたのです。
最大の難関はボーカルレコーディング。

彼女はレコーディングに挑む際、すべて自分で作りこみ
練習してきたことを表現することを好みます。
その練習期間は1曲のために1週間でも2週間でも
家にこもり、制作をするのです。
彼女いわく、これが最大の楽しみであり
楽しい作業ということでもあるようです。
※歌オタクですね笑

さて今回の場合、曲達はできたてのホヤホヤ、
楽器レコーディングが終わって数日も経たないうちに
ボーカルのレコーディングを迫られます。

今回はオリジナルが90%以上を占めますので、
カヴァーと違い、お手本も何もない状態。

NAOには難関でした。ただ僕は楽しみだった。
ブライアンという素晴らしいボーカルディレクターがついて
その場で生まれる、コラボレーション。
前回はスカイプ越しだったのですが、
今回は一緒にスタジオに入って
ブライアンがまた次のレベルに連れて行ってくれることを確信していました。

 

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そして生まれたのが

  • Love Is the Answer
  • LIVE
  • Nobody
  • I’m No Angel

この4曲。NAOが持つソウルフルでブルージーな側面を
しっかりと表現しつつも、新しいことに挑戦した
最高のセントルイスのレコーディングとなりました。

簡易ですが少し解説を。

“Love Is the Answer”


本人がよく言いますが、

恐怖ではなく愛を選ぼう。

どんなエピソードがあったかはわかりませんが、
僕はこう捉えています。

人を愛することは自分をさらけ出すこと、
1人の人を愛するということはある種の選択肢を捨てるということ
例えば、愛することで傷つくかもしれない。
もしかしたら友情をなくしてしまうかもしれない。

でもやっぱり選択は愛すること。

この曲はまさにJBを意識した気合の入ったファンク曲をやるぞ!
というコンセプトで始まり、ブライアンの一番の得意領域で
キレッキレに作ってくれ!!とお願いをして
プロデューサーの自分的には1曲目になることはコンセプトの段階できまっていました笑

“LIVE”

過去に縛られる自分、
未来を恐れる自分は終わりだ。
君は今を生きるべき。
その瞬間瞬間を大切に生きること
それが最高の未来を作り出す。

だから”今を生きろ!”

ミックスをしてくれたトニーはナッシュビルにいて
この曲の最初にミックスをあげてくれた時に、
ドラムのデカさと、パンチ力に圧巻されました。
アルバムの中ではすごい攻撃的なミックスを試みた1曲です。

“Nobody”

この曲はジャム・セッション中に出来上がった曲で、
スタジオでドラマーのロブがリズムを崩しだした時点で、
マイクヒックスが絶妙なアプローチをそこにしていきました。
すかさずコントロールルームにいたブライアンが

DOPE!

と叫びます。そして言いました。

「Naoこの曲はやばい!俺もう歌詞も思いついたから書いていいか?」

ブライアンは決め手には、
プリンス専属のトランペッター、フィリップ
起用することを決めます。データのやり取りで
トラックは全く新しい雰囲気に生まれ変わりました。
自分的には結構ドキドキする采配ですが、アルバムのユニークさに
貢献してくれた一曲です。

“I’m No Angel”

本当はNaoの大好きなEvil Gal Bluesをカヴァー収録するはずだったのですが、

Brian「Nao、自分のブルースを書きなよ!絶対その方がいい。君のストーリーを語ってよ」
「いや、私はEvil Gal Bluesやりたいんだけど。。」
「なんでこの曲なの?」
「私っぽいから。シリアスなものがおおいけど、この曲は楽しいし。。。」
「私はいつもにこにこしてるけど、”天使じゃないから”。。。」

「それだ!I’m No Angel!」

この曲はみなさんツアーでおなじみですが、
12公演を終えた今、毎回毎回成長している曲だなと思います。

レコーディング時はとてもエモーショナルな瞬間があり、
Naoのポテンシャルの高さに何度もワクワクしたことを覚えています。
そういう意味でも熟成された東京ファイナルは最高に楽しみですね。

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簡単な曲の解説になりましたが、1曲1曲にはここには書ききれないだけの
たくさんの意図とエピソードがあります。
ちゃんと意味を持って音楽を世に届けること。
全力で、今ある力を振り絞って音楽に体当たりした経験が
Naoのソウルミュージックには滲み出ています。

レコーディングを終えた僕たちは
このあとダラスに向かい、そしてフィラデルフィアに
そしてアメリカ最終地点のニューヨークで待ち受けていたのは
アメリカ最大の試練でした。

こんなエピソードを思い浮かべながらの
東京ファイナル、ちょっと聞こえ方が変わるかもしれません。
みなさんにお会いできることを楽しみにしております。

次回の更新もお楽しみに!

過去のライナーノーツ

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