Nao Yoshioka Departure 旅立ちの理由 Vol.2



前回に引き続き、Nao Yoshioka Departure 旅立ちの理由について。
前回の記事はこちら:Nao Yoshioka Departure  旅立ちの理由  Vol.1

The Lightでのデビューからメジャーデビューまで

2013年The Lightのデビュー前、SWEET SOUL RECORDSはNao Yoshiokaと契約をした時点で前述の通り、海外の活躍を視野に入れてデビューをしていました。

日本語も入れるべきという周囲の反対を全部押し切り、わざわざ音楽店舗でも洋楽枠でデビュー。そのこだわりは常に徹底してきました。

国内での反響は予想以上のものでした。The Lightは大変嬉しいことに、インディペンデントレーベルからのリリースにも拘らず予想を上回るヒットで日本でも話題に。
その後トントン拍子で話は進み、いわゆる日本で定番の、「メジャーデビュー」をすることになります。

今の時代、メジャーデビュー自体の価値が希薄になっていますが、SWEET SOUL RECORDSという専門レーベルである僕らがYAMAHAさんとの完全タッグを組んだプロジェクト。
単なるメジャーレーベルからのリリースとは違った意味を感じていました。

インディーからメジャーに引き渡しというよくある構図ではなく、最初からしっかりとキャリア設計をシェアし、マーケティングも一緒に思考を重ねて、本当の意味の協働をすることができたのです。

僕自身、アーティストをこの手でプロデュースし、メジャーデビューをさせることは初体験。

前作The Lightの実績もあり、Risingの初期発注枚数、いわゆるのイニシャルの数字は昨今のCD市場では上々の記録をマーク。
普段全く気にしたことがなかったオリコンチャートなどにも掲載され、様々な著名な夏フェスなどにも呼ばれ、日本的メジャーデビューはそれなりに満喫することができました。

日本というマーケットの限界値


Risingのアルバムリリースのキャンペーンの一通りが終わり、新しい人との出会いや全国ツアーの感動など得るものは大きかったのですが、ビジネスとしての結果は

「やっぱりこんなもんか。。」

という感情に見舞われました。予想の範囲を超えなかったのです。自分の実力不足ももちろんあると思います。
日本というマーケットに、正直少し期待した部分はありました。

ソウルミュージックという規模の小さいマーケットでかつ全編英語。
この音楽だったら敵はいませんでしたし、洋楽タイトルのなかでもメジャーなアーティストにも劣らない数字でした。

日本でこれ以上の規模にするにはきっと音楽以外でアーティスト性とは異なる取り組みをしなければいけない。

ストレートにいうと、規模を広げていくには最大のメディアとの連携が欠かせない。しかしオファーをもらえるようなものは、こちらの意図とは違う方法でのブランディングをされるような企画ばかり。

音楽性を妥協したり、本人のアーティスト性と異なる表現をしたり、ミスブランディングではあるが露出は大きいという、トレードオフに応じなければ、お茶の間には出ていけないということを身にしみて感じました。事実こんな条件をつきつけられるような判断がいくつもありました。

結果的にこういったオファーは本人が目指す方向性とは異なることを許諾しなければいけないということであり、それは世界規模で考えるキャリアの観点からも単純に音楽を志すということでもマイナスにしか感じませんでした。

これを打破するためにはいったいどうすればよかったかなど悩みは尽きず、色々とやってきたことを見つめ直すような時間を費やしました。

塾考した結果、日本のマーケットの限界値という見出しはひとつの要因ではあるけど言い訳なんだなと。

大きな意味で、ものづくりをする人間として、最後にたどり着いたのは

本当にいいものを作ったか?

ということでした。もちろんその時にはその時にできるベストをつくすことは当たり前なのですが、アルバムを作りきった頃には新しいインスピレーションと感性の成長もあり、その判断はよりシビアになりました。

Dreamsを封印した理由

夢にはまだまだ遠い。
Risingの企画時、YAMAHAさんから頂くメジャーデビューという冠。やはりプロデューサーとしてA&RとしてNaoが最大限に好きなことをする大前提で、セールスのことも考えた上での企画・選曲もしなければいけないという頭が少しあったのかもしれません。

もちろん音楽自体は世界基準。作りも楽曲も何の偽りもなく作っています。ただ今考えてみると、日本のマーケットがすこし頭にちらついたと今では反省するポイントかもしれません。

音楽作品も彼女のルーツで持っていてかつ日本のマーケットで受けそうな楽曲をシングルとして選択しました。

実はそれがDreamsです。

Nao Yoshiokaの代表曲であり、わかりやすいタイトルとメッセージ。個人的にとても思い入れの強い曲であり、葛藤の真っ只中にいた自分と向き合うことになった曲です。

わざわざコマーシャルな曲を作ったという意味合いでの葛藤ではなく、プロデューサーとしてのスタンスや自分がどこまで意思を押し通すかといった複雑な感情を抱えた時期でもありました。

プロデュースをしてくれたゴードン・チェンバーズとの考え方の違いやレコーディングでの出来事など、一部はシークレットライブに来てくださった方だけへのご説明になりましたが下記でご覧いただけます。

「RISING」プロデューサーズライナーノーツVOL.4 アメリカでの悪夢その2

ファンの皆さんにはDreamsはとても高評価をいただくことができました。でも僕にとってはしっかりとその時は消化ができていない曲だったのです。

メジャーデビューのRisingリリース後、こんなことばかり考えて猛省し自分に言い聞かせたことがありました。日本で受けた評価は悪くはなかったものの、常に自分が意識をしなければいけないこと。

このアルバムで本当にアメリカに挑めるのか?

日本でのメジャーデビューとはいえど、世界規模で考えれば一拠点でのリリース。企画、録音、楽曲、クオリティをもっともっとブラッシュアップしなければいけない。

夢はまだまだ先の先。

だから本人と相談してDreamsを封印しようと一度心に留めたのです。Nao Yoshiokaの夢はまだまだ序章であり、これから大きな夢を叶えることに集中しよう。だからあえてアメリカではRisingはリリースをすることを断念しました。

僕たちはまだまだできる。もっと成長できる。

ある意味いい教訓でした。このままこのRisingが予想以上に大きくなり、日本でも満足してたかもしれないと思うと、このアルバムのおかげで目を覚まされたというふうに今では考えることができます。

Naoの可能性を伸ばすThe Truth

その流れから完全に方向性を振り直し、The Truthを作りました。
過去の記事をぜひご覧いただければとおもいますがRisingはThe Lightの流れから、Nao Yoshiokaの積み上げてきたこと、やりたかったことをブラッシュアップして制作。

The TruthはMake the ChangeというNaoにとってシングルデビュー時の音楽性を基にNaoから一任されて制作した新しいNaoの可能性を最大限に伸ばして、未知への可能性のアプローチ。

「THE TRUTH」プロデューサーズライナーノーツ VOL.2 THE BEGINNING OF A NEW CHAPTER

結果、The Truthは予想以上にファンの入れ替えが起こったアルバムでした。

とても納得したことが、やはり「ブラックミュージックファン」の方々への理解が割れたことです。それはある意味納得の結果ではありました。

The Truthはコンテンポラリーなアルバムになりました。Nao Yoshiokaをオールドスクールな「ブラックミュージック」という箱に入れたくないという思いがあったのです。そして楽曲のメッセージたちも、レトロスペクティブだったものから、現代に対するアーティストとしてのメッセージに移り変わったことに合わせて選んだ音楽のスタイルでした。

Nao Yoshiokaはソウルシンガーであり、ソウルミュージックを歌う。
ソウルミュージック=ブラックミュージックではありません。ソウル=魂であり、それはライブ会場に来れば、みなさんお分かりでしょう。

僕たちはソウルミュージックのルーツであるアフリカンアメリカンをリスペクトしています。ただそれは過去の憧れであり、真似事をしているのではなく、歴史を理解しスタイルを学び、世界を旅して現地の人と接し、音に国境や人種の垣根を越える力を感じているからこそ、ルーツを超えて新しいものを作りたいと思って作った作品です。

ソウルミュージックに、肌の色は関係ない。スタイルもジャンルも関係ない。新しい世代が持つ感覚で創造される魂の音楽であり、僕は創業当初からそれを理解し自分の嗜好性はもちろんありますが、「SOUL OVER THE RACE」というアルバムタイトルや「WORLD SOUL COLLECTIVE」など世界中のソウルミュージックをコレクトして今まで励んで来ました。

 

The Truthで表現した世界と音楽とのコネクション

Men behind Nao Yoshioka, After Blue Note New York Show, 2015

僕たちが旅して気づいた「真実=The Truth」は、とてつもなくポジティブだった。とにかく良いものを作るために、人種も国境も越えて繋がっていくこの感覚を感じたのが写真の瞬間です。

「THE TRUTH」プロデューサーズライナーノーツ VOL.1ボーダレスな感覚

このアルバムでは、今まで評価をしてくれなかった音楽業界の人々や新たなファンの方々が絶賛をしてくれました。スタイルではなく、Nao自身の歌唱力や表現力に着目してくださった方もおり、狙い通り本人の可能性を追求できたことも証明できたのです。

海外も同様に、今まで応援してくれたニューヨークのチーム、メディアそしてロンドンやオランダの関係者からも以前にも増して高い評価を得ることができました。これにより世界を意識したシフトができたことへの成功を確信できたのです。

こうして改めて制作面からの世界へのシフトは着々と行われていたのです。

世界をもっとみて、聞いて、その場で感じて、実際に空気をすって日本にも伝えていきたい。

単純に世界に出て行ってそれで終わりではなく、ここ日本に生まれ日本から始まり、世界で感じた新しい感覚を、世界にも日本にも届けていくこと。
これこそ、ユニークであり探究心をくすぐられる最高にワクワクすることではないだろうかと、強く感じることにもなったのです。

世界は広い。僕たち日本人は、いわゆる日本人に囲まれて生きることが大半ですが、世界に出ると自分たちの良さや世界との違いを肌で感じることができる。固定概念にとらわれず、様々な異なる考え、文化、音楽を見て感じて、進化したスタイルを追求したくなるのです。

次回は最終編、今回のエピソードの締めくくりです。

公演の詳しい情報はこちら。

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