「The Light」プロデューサーズライナーノーツ その2

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ライナーノーツですが、予想通りとんでもなくながくなり、
リリース出来ないという事態に陥りました。。

たくさんのリクエスト頂きましたので、
とりあえず断片でもいいから出そうと思います。

通常のライナーはきっと、楽曲の解説が中心だと思うのですが、
僕の立場上、制作秘話やそこに懸ける作り手の思いをお伝えしたいと思います。

まず前回のライナーノーツをおさらい。

前回はアルバム制作をする決意までを書きました。
今回は決意の後に音作りの前にどんなことをしたか綴ります。

アルバムの構想をつくる

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一番最初にNao Yoshiokaとアルバムの話をしたのは
おそらく2012年の8月頃。
ブルースのカヴァーアルバムを創りたいと話していました。

僕たちがNaoを正式に受け入れると決めたのはたしか2012年10月くらいのことで、
その頃には何が来ても彼女がやりたいことをまずはさせようと思っていました。

ところが、話を聞いた当時からなんと彼女がやりたい事が変わっていました。

「カヴァーばっかりやって、ありがちなブルースバンドみたいになるような気がするからおもろない」

じゃあもしよかったらのMake the Changeのように

「SWEET SOULの海外のアーティストに書いてもらうのはどう?」

と聞くと目をきらめかせました。

でもちょっと待てNao Yoshioka、そんな簡単にアルバム制作は進まないぞ。
とりあえずオリジナルやろか?というテンションで制作を進ませる訳には僕的にはいきませんでした。

 

揺るぎないコンセプト

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「コンセプトはなんなの?」
「なんであなたはこのアルバム創るの?」
「なんで歌ってるの?」
「このアルバムを出して何の意味があるの?」

こんな質問を何度もして、アルバムの根幹となる
コンセプトを抽出していきました。
きっと本人にとっては必然でしたが苦しい作業だと予測出来ました。

彼女の生い立ち、日本での学生時代や
アメリカの話を時間をかけて聞き出し
Nao Yoshioka自身も自分の軌跡の整理をしていきました。

彼女がひきこもりで家から出られなくなった事や
アメリカでのつらかった修行の日々、
そして東京での不安な日々など一切合切を棚卸しして
対話に対話を重ねました。

そして出て来たコンセプトは

「人間らしさ」「不完全・未完成な自分を愛する事」「小さな希望の光があればどんな苦境でもがんばれる」

芸術的なアウトプットはその人の精神性が現れるというい話を以前どこかで
したと思うのですが、 これは後に彼女の音楽性を
しっかりと方向付けるもっとも重要なコンセプトとなっています。

コンセプトを抽出する作業をしたことで僕自身納得出来たことは、
Nao Yoshiokaがなぜソウル・ゴスペル・ブルースを歌うのか。

きっかけはきっと本場のソウルシンガー達に
憧れをもったのだとおもうのですが、
Naoがブルースやソウル、ゴスペルに傾倒する理由は、
苦境から這い上がったり、愛や神さまといった
みえないものを信じ抜く力を養うためにつくられた音楽との
精神性の一致であるのです。

ソウルやゴスペルという音楽の歴史を創り上げた人々の
精神性にNaoは共感し、自分の経験をリンクさせ、
自身の言葉として歌う理由があるため。

自分自身の体験から生まれたメッセージを
ただのボーカリストとしてではなく、アーティストとして、
多くの人に自分の考えるメッセージを伝えるためのツールとして
ここで初めてアルバムの存在意義がNaoにとって明確になりました。

 

アルバムに懸けるの僕らの思い

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一方、Naoのコンセプトとは別にアルバムを手掛ける僕やレーベルにおけるThe Lightへの取り組みは
色々な意味での挑戦でした。

世界3ヵ国でつくることにおける様々なハードル
(予算、コミュニケーション、不慣れ、etc)
手に余るほどの素晴らしい才能を世界に届ける責任。
そしてレーベルオーナー兼CEOであり、
プロデューサーである僕の真価を問われる作品です。
この真価とはまわりからだけではなく
自分にとって今までやって来た事や感じて来た事、
自分のセンスが本当に確かなものなのかどうか
確認をすることにもなると感じていたのです。

 

モノづくりの姿勢を見直す

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前回のブログの悩みの一つとして書きましたが
Nao Yoshiokaとの制作にあたり僕はモノづくりへの
姿勢を再度改めました。

同時に今僕たちがどのような状況下に
おかれているかもしっかりと把握する必要があると思いました。

毎年下降するCDの売上、デジタルも頭打ち。
レコード協会のレポートを見て
僕たちのターゲットの人たちの不買の理由で愕然とするのは

「既にもっているもので満足している」

という項目です。
これは非常に正しい結果なのだと思います。
今出ているもので過去の名作を越えるようなものは滅多にない。

とくにソウルミュージックには素晴らしい歴史があり、
70年代という黄金期から90年代後半まで
音楽業界が元気な時代が続きます。
音楽バブル。

業界が元気ということは、制作費もいっぱいかけられる。
素晴らしいミュージシャンもいっぱいいる。
音楽という仕事で多くの人が食べられる。
大成功する人もいて夢の仕事になる。
アーティストも自由に、クリエイティブに制作をできる。

こんな相乗効果の連続だったと思います。
僕らが音楽事業を始めたときはまさに死に行く業界と
騒がれ始めた時でした。

ビジネスとしての音楽がある程度確立され
マーケティング手法で音楽のセールスをいかにつくれるかという時代に突入。
現場ですごい音を創れるひとよりも、ビジネス側の声が大きくなる。
コンテンツの質よりもアイデアや販売手法を重視するようになるわけです。
一番大切な制作への投資が行われなくなるプロセスが生まれました。

音楽ありきからビジネスありきへ。
ミュージックビジネスからビジネスミュージックへ。
負のスパイラルから抜け出せない状況になっています。

むしろ良い時代がビジネス手法だけで膨らんだ、
バブルだったといえるため、今が正常値であるという意見も多々あります。

デジタル配信という新しい仕組みが生まれたから、
時代が変わったから、といった音楽業界でいいわけをする様々な隠れ蓑はあるのですが、
最初にもリスナーが明示していることが一番の理由では無いかと気付きました。
みなさんもお気づきかもしれないですが、

音楽産業の腐敗は、コンテンツの陳腐化である。

これは明白なんだなと。

 

過去の偉大なる遺産との戦い

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どのような状況下においても、僕たちの音楽が好きなリスナーは正直です。
特にいいものを知ってる人たちはそれに惑わされません。

音楽は嗜好品あり、質が低ければ買う必要などない。
でも逆に、いいものがあれば買うよということでもある。

それを実感したのは、以前バイヤーズリストという企画をした時に
レコード中古販売の最大手ディスクユニオンさんの
新宿ソウルブルース店に取材で行ったときの事です。

17時頃からお店前に行列ができます。
購入する人たちはレジに山積みにCDやアナログをおいて
諭吉さんを何人も手放します。

「僕たちは業界の同行とか景気とかあんまり関係ないですね。」

とバイヤーの方がおっしゃっていたのを今でもわすれません。
もちろんコレクターやマニアといった人もいると思うのですが、
新しいものを買うよりも過去の名作達を掘ることのほうが
質が高いから買うということです。

いい音楽に時代は関係ないですからね。

僕たち制作側が良いものを出せてないという責任感。
売れない売れないといってるのは、テクノロジーの進化が全ての原因ではなく
制作側に問題があることは明白です。
この黄金期に比べたら買わないわなーと納得もできるのです。

過去の偉大な遺産との戦い。
70年代や90年代の録音状況を再現したり、
その時代に活躍した人に仕事を依頼したりすることも
色んな人に勧められました。

でもモノマネをしても意味は無い。

http://www.sweetsoulrecords.com/concept/

僕たちSWEET SOUL RECORDSはレーベル設立から
過去のモノマネではなく、自分たちのオリジナルであり
2010年代の新しいソウルミュージックの確立を目指していました。

自分たちの新しいサウンドを創る。

このジャンルを現行で志す人は
必ず歴史を作って来たソウルミュージックのアーティスト達に
触発され、影響され学んできています。

でもモノマネをするのではなく、自分たちなりに
新しいエッセンスを吹き込み新しい音楽を創る事を目指して。
僕たちはそれをネオソウルという言葉で表現しています。

アメリカへの憧れでもなく、黒人へのあこがれでもなく
黄金期の亡霊を追っかけ続ける事でもなく
新しいサウンドで成功する事。シーンを創る事。

SWEET SOULしかできない唯一無比のサウンドとはなにか。
それがワールドワイドプロジェクトという思考に至ります。

 

目指すものは世界最先端、現在進行形のソウルミュージック

WORLD SOUL COLLECTIVE VOL.2

ソウルミュージックの進化をここ日本で5年間リードし、
世界のシーンを見て来た僕たちの強みである
世界最先端のモダンソウルを詰め込んだ、
新しいもので挑戦する事であると
僕たちは結論づけました。

僕らSWEET SOUL RECORDSのコンセプトである、
生音サウンド、アーティストやミュージシャンの息づかいが聞こえるような
タイムレスで、リアルな音楽を世界中のシーンをリードする、
インデペンダントのアーティスト達と協力して制作をする事。

そういったコンセプトをNao Yoshiokaのアルバムにも
盛り込んで制作を始めたのです。

次回に続く

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