“Note to Self”が誰かの未来を照らすとき

今年1月のアメリカの旅から、『Flow』のワールドツアーは中国、ペナン、そしてUK、パリ、ワルシャワと、今年も充実した世界ツアーを実現することができています。

そして現在、僕はこのワールドツアーを締めくくるために再びアメリカに来ていて、シカゴ公演を終え、今夜は最終公演となるエルクハート・ジャズフェスティバルのメインステージが待ち構えています。


今回もかなり過酷なスケジュールだったのですが、昨日シカゴから車で2時間ほどかけてインディアナ州のエルクハートに到着し、少し時間ができたこと。そして、必ず記録しておきたいと感じるほど心に響いた出来事があったことから、こうして久しぶりにブログを書いています。

シカゴの夜に受け取った想い

2日前に行われたシカゴ公演、The Promontoryでのライブ。
この日は、僕にとって大きく視点が変わったような感覚がありました。
ひとりのアーティストが僕に伝えてくれた言葉が、今もずっと胸の中で響き続けています。

その言葉に突き動かされて、いま、こうして皆さんに向けて文章を書いています。

The Promontoryでの公演を終えた夜、僕たちはいつものようにファンとのミート&グリートをしていました。この日のオープニングアクトを務めてくれたMayaも、そこに来てくれていました。Mayaは、アジアにルーツを持つアメリカ人アーティストで、Naoの長年のファンでもあるとのこと。

彼女にはNaoのYouTube用にインタビューもお願いしていたのですが、それにも快く応じてくれました。

ライブ中、彼女はステージ最前列で体を揺らしながら、心から楽しんでくれていたのが伝わってきました。
その熱量のまま、彼女はまっすぐな言葉で、こう語ってくれたのです。

Naoのようなアジア人女性が、ソウルやネオソウルというジャンルの世界で堂々とリーダーとして活躍していることが、私にとってどれだけ大きな意味を持つか。あのステージに立つ彼女の姿を見るたびに、私もここにいていいんだ、夢を追っていいんだって思えるんです。

その瞬間、心が揺さぶられるような感覚がありました。

これまで何度も、「日本人がソウルミュージックでグローバルに挑戦する意味」について考えてきましたし、自分なりの答えも持っていたつもりでした。

日本の音楽業界に少しでも多様性をもたらしたいという思い、そして「日本人でも世界で活躍できる」という軌跡をアーティストたちに見せて、インスピレーションを届けたいという気持ちがありました。

でも、Mayaの言葉は、僕が思い描いていた以上の現実を教えてくれたんです。

それは、ただ「日本人が海外で活躍している」という話ではなく、アジア人としてのアイデンティティや、多様性の中で葛藤を抱える若い世代にとって、Nao Yoshiokaという存在が“リアルなロールモデル”になっているという事実でした。

そしてMayaは、Naoがステージで大切に届けている「Note to Self」についても話してくれました。

この曲は、「もし幼い頃の自分が今の自分に出会ったら、きっと誇りに思ってくれるはず」というNao自身へのラブレターのような楽曲です。

でも、Mayaにとっては、それがまったく別の意味で響いていたと言います。

“あの曲を聴くと、Naoがまるで私に向かって『あなたも私のようになれる』って言ってくれているように感じるんです。”

その言葉に、僕は思わず声を失いました。

これまで僕たちが積み重ねてきたことの意味が、新しい形で、まさに今この瞬間に拡張されたような感覚になったのです。

これほどまでに、この音楽が誰かの心に深く届いていたことを、僕は想像しきれていなかったのかもしれません。

その声はどこからくるのか?

彼女の話には、もうひとつ大きな意味が含まれていました。

ソウルやネオソウルといった音楽は、強いルーツとアイデンティティのうえに成り立っています。

アフリカン・アメリカンの歴史と闘いから生まれたこの音楽には、いまなお「これは彼らの音楽だ」という感覚が根強く存在しています。

日本では、こうしたジャンルを「ブラック・ミュージック」と呼ぶことが多く、そこには“肌の色と音楽ジャンル”が強く結びついたイメージが染みついています。

でも僕は、その言葉にずっと違和感を持ってきました。

レーベルを設立したときから、「ブラックミュージック」という表現は使わないと決めていました。僕たちが向き合ってきたのは、“ブラック”というカテゴリではなく、“ソウル”つまり魂の叫びとしての音楽なんです。

僕たちアジア人がこういった音楽をやることに対して、違和感や距離を感じる人がいることも理解しています。そして、それを僕ら自身が感じてしまうことも、もちろんある。

Mayaの言葉には、そうした背景──「自分はここにいていいのか」と自問するような思いが滲んでいたように感じました。

“日本人のソウルシンガー?どういうことだ?”

そう思う人がいたって、おかしくはありません。

でも幸いなことに、Naoの歌声や姿勢がしっかりと届いているおかげで、僕たちはこれまで、ほとんど批判を受けたことがありません

彼らが見ているのは、“肌の色”ではなく、“その声が本当に魂から出ているのか”、“心から歌っているのか”。

僕たちは、その視点に何度も救われてきました。


音楽が超えていたもの

Mayaとの対話のあと、ホテルに戻っても、彼女の言葉が頭の中をぐるぐると巡っていました。それは感動というよりも、もっと深いところで自分の中の何かを揺さぶられた感覚でした。

僕たちが積み重ねてきた年月や努力が、想像もしなかった形で、誰かの生きる力になっていた。そのことが、心の奥に静かに、けれど確実に響いていたのです。

音楽が人々を励ますことができる、そんな言葉は日常に聞いてきたのですが、
彼女からそのメッセージを直接聞くことで、その言葉のリアリティが全く変わって見えました。

Naoの存在が、“誰かが自分自身を肯定するきっかけ”になっているということ。
それは、「音楽が心を動かす」なんて言葉よりも、もっと具体的で、重みがある。

いつかは僕らが学んだことを直接次世代に伝えたり、何らかの形で伝えるつもりではいたのですが、現在すでに活動している方法で、Naoの存在が、若いアーティストたちにとっての「道しるべ」になっている。
彼女の歩いてきた軌跡が、誰かにとっての「これからを信じる根拠」になっている。

この数年、世界のあちこちを回りながらNaoと活動を続けてきた中で、パフォーマンスとしての精度や、ビジネスとしての成果を追い求めることが多くなっていたのも事実です。

でも、今回の出来事は、そんな日々の中にすっと差し込んできた原点のような光でした。

僕らは、ただライブをしに来ているんじゃない。その場に立つことで、「自分という存在ごと」誰かに届けているんだということ。そしてその「存在」が、誰かの生きる力になっているということ。

それに気づけたこの出来事は、僕の中で忘れられないものになりました。

Flowの旅クライマックス、そして未来へ

今日の公演をもって、僕たちは『Flow』にまつわるツアーの一区切りを迎えます。クラウドファンディングから始まり、本当に多くの方に支えていただき、ライブにも足を運んでもらいながら、僕たちはまた一歩、成長することができました。そしてNaoは今、世界中からオファーをもらえるアーティストへと進化しています。

2012年のデビュー曲 “Make the Change”ー「自ら変化を起こせ」というメッセージから始まり、
“If You Believe”─「信じれば実現する」という願いへと昇華し、いま僕らはまた、新しい景色を目の前にしています。

7月からは新たなプロダクションフェーズに入ります。

来年以降、また新たな出会いがあり、まったく新しい風景を見ているのではないか、そんなポジティブな予感に満ちています。

音楽を作り続け、メッセージを届け、そして僕が長年願ってきたように、次世代のアーティストたちをインスパイアすることができている。
この瞬間を、静かに、でもしっかりと噛みしめながら、旅は続いていきます。

この夢の続きを、また皆さんと一緒に作っていけたら嬉しいです。

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