このブログも最終局面になってきました。今回と次回で全曲解説を行い、そしてその次が最終の記事となります。
いよいよヨーロッパツアーがスタートし、ロンドンに滞在中です。明日からリハーサルが始まりますが、その前の時間を使ってこのブログたちを仕上げています。
『self』には全12曲が収録されています。ここからは一曲ずつ、それぞれの背景にある出会いや制作の物語を紹介します。全12曲、とんでもないボリュームになってしまい、二つの記事に分けてお届けしようと思います。
国も世代も異なるアーティストたちと、どのようにつながり、どのように音楽を形にしていったのか。アルバムを聴きながら読んでもらえたらうれしいです。それでは一曲目から。
1. 「Changes」 feat. Devin Morrison

「Changes」は、僕の大切な友人であり、今や誰もが認めるライジングスターとなったDevin Morrisonとの楽曲です。彼のことを知ったきっかけは、SoundCloudで見つけた一曲でした。
音楽業界の著名なプロデューサーやアーティストから常にラブコールを受ける彼は、めきめきと頭角を現しています。近年リリースしたアルバムを日本でレコーディングするほど、日本という国を愛しているアーティストでもあります。
Devinは、いつも僕らの作っている音をきちんと聴いたうえで、自分が本当に合うと思ったものを制作してくれます。今回届いたのは、ハウスの要素を感じさせる、これまでのNaoにはなかった質感のトラックでした。
シングル「Make the Change」を発表して以来、僕らは「変化は自分たちの手で起こしていくものだ」と考えてきました。しかし、キャリアを重ねるなかでは、自分たちの意思とは関係なく、目まぐるしい変化が訪れることもあります。
「Changes」は、そんな変化そのものに、今の僕らがどう向き合っているのかを込めた曲になりました。
アルバムの始まりにふさわしい、どこか神聖な空気をまとった一曲。
2. 「You Got to Feel It」 feat. Bnnyhunna & Braxton Cook

オランダのアーティスト、Bnnyhunnaとの出会いから生まれた楽曲です。Naoのデビューアルバム『The Light』から、オランダのアーティストとのコラボレーションは今も続いています。
彼は以前から個人的に注目していたアーティストで、Benny SingsのマネージャーでもあるJochemがマネジメントしていました。
ガーナにルーツを持つ彼は、アムステルダムらしいジャズのエッセンスを含ませた洗練されたサウンドに、アフリカンなヴァイブスを溶け込ませた、独自のミクスチャーを聴かせてくれます。
彼のマネージャーであるJochemから、彼の作品をSWEET SOUL RECORDSでリリースしないかという打診があった頃から、僕は彼らにNaoとのコラボレーションを提案していました。オランダを訪れた際にも、Jochemにその話をしていました。ちょうどOPRCTでオランダのアーティストたちによるショーケースが開催され、彼も出演者の一人に選ばれて来日したことで、セッションが実現しました。
OPRCTで公演を終えた後、Naoの自宅のスタジオで制作し、生まれたのがこの曲です。
心地よいヴァイブスのなかで、Naoが自然にメロディを乗せ、僕も制作に加わりました。
これはシングルになる。その場で、そう確信しました。
楽曲の大まかなアイデアが固まったとき、管楽器をフィーチャーしたいという話で盛り上がり、共通の友人であるBraxton Cookに声をかけました。Braxtonとは、SWEET SOUL RECORDSから彼のデビュー作品をリリースし、日本ではモーションブルーでの公演も実現するなど、長い付き合いがあります。Naoも個人的に親交があり、僕が久しぶりに連絡すると、すぐに快諾してくれました。そして、あっという間にファイルが届きました。
アメリカ、オランダ、日本。三つの国が自然につながって生まれたコラボレーションです。
3. 「Safe Place」 feat. Peter CottonTale & Jamila Woods

2025年、シカゴを含むUSのショートツアーが予定されていました。
シカゴといえば、Chance the Rapperの周辺に面白いプロデューサーが必ずいるはずだ。そう考えてリサーチをしたところ、たどり着いたのがPeter CottonTaleでした。
そして、シカゴを代表するアーティストの一人にJamila Woodsがいます。彼女もChance the Rapperと共演しているアーティストで、Naoは以前から彼女の音楽が大好きで、ずっとファンでした。せっかくシカゴへ行くならと、Naoが世界各地で築いてきたミュージシャンとのつながりを通じて、紹介してもらうことができました。
現地ではJamilaとのスケジュールを合わせることが難しかったものの、Peterとのセッションは実現しました。彼のプライベートスタジオでは、Chanceの制作を支えるプロデューサー陣がその場で楽器を弾き、何曲ものトラックを仕上げていきました。Naoもその場でメロディのアイデアを考えました。それらを日本に持ち帰り、今回のアルバムにフィットするトラックを選んで生まれたのが、この「Safe Place」です。
今回の制作では、Naoがライティングのたびに山中湖へ赴き、水辺で時間を過ごし、緑に囲まれた場所で曲を仕上げていきました。東京に帰ってくるたびに素晴らしいアイデアを披露してくれましたが、この曲は特にメロディ、歌詞ともにほぼ完成していたので、スタジオに入り、すぐにボーカルを録音しました。その音源をJamilaに送り、オンラインでのビデオチャットを経て、彼女のパートを加えてもらったあと、Peterと一緒に仕上げていきました。Jamilaのボーカルレコーディングには、僕の大好きなアーティストであり、プロデューサーでもあるChris McClenneyもクレジットされていました。最後はPeterがすべてのボーカルパートをまとめ、楽曲に魔法をかけて完成させてくれました。
4. 「Pieces of Me」 feat. Mỹ Anh
ベトナムのレーベルオーナーであり、アーティストマネージャーでもあるドンとの縁から生まれた曲です。
シドニーで開催されたSXSWで出会った彼が、その後来日してOPRCTのイベントに足を運んでくれたとき、こう提案してくれました。
「ベトナムのアーティストとコラボレーションしてみないか」
そこで紹介してもらったのが、彼がマネジメントするMỹ Anh(ミアン)です。彼女がつくる楽曲には、僕らと通じ合うものを感じました。僕がNaoに彼女の話をしたところ、Nao自身が以前からフォローしていたアーティストだったという偶然も重なりました。
これはもう、やるしかない。そこから話はすぐに進みました。
以前から、Kanye Westの作品も手がけたドイツのプロデューサー、Shukoとのコラボレーションが決まっていました。彼がプロデュースしてくれていた、少しノスタルジックな90’sテイストの楽曲をベースに、このコラボレーションを実現させることにしました。
Naoが山中湖でメロディを書き上げたあと、実際にベトナムへ足を運び、Mỹ Anhのスタジオで彼女のレコーディングを見守り、一緒に楽曲を仕上げました。
制作だけでなく、一緒に食事をし、街を案内してもらい、さまざまな時間を共有しました。ベトナムという国の空気や文化を肌で感じられたことも、このコラボレーションを特別なものにしてくれたと思います。
それぞれの母国語を持ちながら、あえて英語で歌い、世界を目指す二人。そこには確かな共鳴がありました。
実際にその国へ足を運び、顔を合わせて曲を作ることの大切さを、改めて実感させてくれた曲です。
これまでラップをしたことのなかったNaoが、この曲では自然にラップをしていて、それが見事にはまっていたのも印象的でした。
5. 「In the Rain」 feat. MXXWLL

MXXWLL(マックスウェル)は、僕にとってHomieと呼べる存在です。
実は何年も前、彼が『Beats Vol. 1』という傑作を世に送り出した頃から、コラボレーションを実現したくて、レーベルのあらゆるルートを使って連絡を試みていましたが、まったくつかまりませんでした。
ところが、僕が会社を運営してきた15年間を振り返るため、一カ月の戦略的休暇(サバティカル)を取っている間に状況が動きました。たまたま来日していたMXXWLLが出演するフェスへNaoが足を運び、本人と直接話をつけてきたのです。
「山内さんがサバティカルから戻ったら、セッションが決まっているから」
約束の時間にMXXWLLがスタジオに現れ、一緒にセッションを行いました。そこで意気投合し、彼とは長い付き合いになると感じました。
「In the Rain」は、SXSWでオーストラリアを訪れた際、シドニー郊外にある彼のスタジオで生まれた曲です。
国立公園に隣接する素晴らしい環境で一緒に音楽を作っていると、ちょうど雨が降り始めました。その光景を、そのまま曲にしていきました。
緑に包まれ、葉から雫が落ち、夕方になると太陽の光が水滴をきらきらと照らす。そんな情景が、今でも目に浮かびます。今回の『self』というアイデアにも、彼女が自分を見つめ直すことのできた環境にも、常に自然がありました。この曲は、このアルバムというよりも、Nao Yoshiokaそのものを象徴するような楽曲で、アルバムの中でもひときわ輝く一曲だと感じています。その理由は、僕が改めて感じたこのことにあります。
Naoは、改めてソウルシンガーなんだ。
この曲を作り終えたとき、改めてそう実感しました。
AIが台頭し、質の高い音源を誰もが簡単に手にできる時代だからこそ、生の楽器で音楽を作ることの尊さや、声にさまざまな加工を施すのではなく、歌一本でキャリアを築いてきたソウルシンガー、Nao Yoshiokaのソウルフルネスをもう一度大切にしたい。そんなことを思わせてくれた曲でもあります。
SWEET SOUL RECORDSが最初に掲げていた「生音」というコンセプトへ、僕らはもう一度戻っていくのかもしれません。
6. 「All I Wish」

オランダの新進気鋭のギタリストであり、プロデューサーでもあるRafa(Rafael Devante Sinay)との共作から生まれた楽曲です。
Rafaと出会ったのは2023年。ヨーロッパツアーでオランダを訪れたときでした。バンドメンバーから「彼は天才だから」と推薦され、スタジオでのリハーサルで初めて彼と出会いました。若手ながら、すでに多くのアーティストから声がかかるプロデューサーでした。
彼の祖母は日本人であり、日本の文化にも深い知識と愛着を持っています。定期的に行われている、オランダの音楽文化を日本で広げる取り組みのなかで、前作『Flow』にも参加してくれたJAELが日本を訪れ、OPRCTでのプライベート公演があった際に、改めてRafaと過ごす時間がありました。僕らは彼とじっくりコミュニケーションを取り、次にオランダで会った際には一緒に制作することを約束しました。
そして予定通り、2024年、Naoのツアーでオランダに到着して間もなく、彼の家へ招いてもらいました。
彼が暮らしていたのは、Jarreau Vandalも住んでいたクリエイター向けのレジデンスでした。夜遅くまで一緒に曲を作り、その日だけで5曲ほどが生まれました。
その際に制作した一曲が「All I Wish」です。
制作を始めるときから、ギターを軸にした曲を作ろうと決めていました。ライブですでに同じステージに立っていたこともあり、お世辞抜きに、彼に特別な才能があることは明白でした。
僕が関わるプロダクションでは、これまでアコースティックギターをほとんど使ってこなかったので、それを中心に据えた曲を作りたいという思いがあり、僕にとっては新たな取り組みとなりました。結果として、彼の才能が最大限に発揮された、アコースティックギターとエレキギターが際立つ楽曲になりました。個人的には、最後の彼のソロがお気に入りです。
以前からNao Yoshiokaは、等身大の自分よりも少しポジティブな面をアルバムに込めてきましたが、今回のアルバム『self』では、等身大の、より本音に近い自分と向き合ったことも特徴かもしれません。この楽曲のメッセージにはどこか寂しさや悲しみがあり、アルバムの中では、少し立ち止まって一息つくような役割を担っていると思います。
ここまで、いかがでしたでしょうか。次回はM07からM12までを紹介し、全曲解説を締めくくりたいと思います。
過去記事はこちら
「self」プロデューサーズライナーノーツ VOL.1 2013年から続く、世界への挑戦
「self」プロデューサーズライナーノーツ VOL.2 弱さを受け入れて、自分の言葉を手に入れるまで
「self」プロデューサーズライナーノーツ VOL.3 『Yet to Come』—叶わなかったコラボレーションが教えてくれたこと