良い文化は、どうやって生まれるのか。──higher.を作った理由

目次

ようやく、この場所が形になった

以前、こちらの記事で仲間を募集しました。
感覚が交差する場所を、ゼロからつくる──LIFESOUNDの新しい飲食プロジェクトと仲間募集について

あれから約1年。

2026年6月26日、クリエイターズハブ/カフェ、higher.はOPRCT 1階にオープンしました。

構想から数えれば20年以上。事業として本格的に動き始めてからも約1年。長い助走を経て、ようやくこの場所は形になりました。

6月24日に行ったオープニングレセプションでは、SWEET SOUL RECORDSのアーティストであるNao Yoshiokaがライブを届けてくれました。人が集まり、音楽が流れ、higher.のために作ったオリジナルブレンドやハーブティーを片手に、それぞれが自然と言葉を交わしている。その光景を見たとき、「ようやくここまで来た」という実感が込み上げてきました。

僕にとってhigher.は、新しくカフェを始めた、という話ではなく20年以上、音楽と向き合いながら考え続けてきたことを、ようやく一つの場所として形にできたという感覚の方が近いと思っています。

今回はオープンの報告とともに、この場所が目指していること、そして僕がなぜhigher.を作ろうと思ったのかを、改めて書いてみたいと思います。

良い文化は、どうやって生まれるのか

higher.はカフェという機能を持っています。

だからコーヒーを飲むことも、食事をすることもできます。でも、それは目的ではなく、この場所を体験してもらう入口だと考えています。

約20年、音楽の仕事を続ける中で、「どうすれば、いい音楽、音楽家や文化は育っていくんだろう」ということを考え続けてきました。

世界中のミュージシャンと仕事をし、さまざまな国を訪れる中で気づいたのは、才能だけでは音楽家は輝けないし、文化も生まれないということです。

もちろん時代背景や歴史がある。人種や地域性もあります。今ならYouTubeのようなプラットフォームもあり、昔より圧倒的に高いレベルで演奏する若いミュージシャンもたくさんいます。素晴らしい才能たちがいる。

文化となると、一つの要素だけで育つものではありません。

その中で僕が何度も目にしてきたのは、人が育ち、挑戦し、出会い続けられる「環境」と「仕組み」の存在でした。

その場所には、偶然ではなく、必ず人が育つ理由がありました。

だからLIFESOUNDは、音楽だけを作る会社ではなく、空間を作り、メディアを運営し、そして今回、食という領域にも挑戦しました。

その思想を、もっとも身近な形で体験できる場所がhigher.です。

その考えに至るまでには、僕自身が世界を旅する中で見てきたものがあります。

文化は、才能だけでは育たない

仕事柄、アーティストと一緒に海外を回るチャンスを今までいただくことができました。その中で気づいたことがあります。いい音楽が生まれる場所には、必ず「仕組み」があるということです。

最初にそれを強く感じたのは、ニューヨークでした。2014年ころシンガーソングライターのGordon Chambersに勧められて、ブロンクスにある大きなゴスペル教会を訪れました。

それまで僕が持っていた教会のイメージとはまったく違いました。ステージの左右には巨大なスクリーンがあり、まるでライブ会場のような雰囲気でした。

「今のコンサートという文化は、こういう場所から生まれてきたんだ。」

そんなことを思ったのを覚えています。

でも、本当に印象的だったのは、その後でした。礼拝が終わると、地域のイベントやボランティア活動、採用情報まで次々に紹介されていく。そこには音楽だけではなく、人と人をつなぎ、地域を支えるコミュニティがありました。音楽は、その文化の一部として自然に存在していたんです。

セントルイスで訪れた教会は同じ施設内に音楽のリハーサル施設や体育館などもついていました。

フィラデルフィアでも、同じようなことを感じました。

これまで、レコーディングやライブ制作で何度もフィラデルフィアへ通ってきました。夜になると街中のジャズベニューではセッションが始まり、世界で活躍するトップミュージシャンたちが、ごく自然に演奏しています。若いミュージシャンはその場に集まり、一緒に演奏し、学び、また翌週もやってくる。誰かが教えているわけではないのに、街そのものが学びの場になっていました。

フィラデルフィアには、教会文化だけではなく、クラシックやオーケストラの文化も深く根付いています。そうした土壌の上で、黒人音楽と白人音楽が交わり、やがてフィリー・ソウルという独自のサウンドが生まれていきました。文化は突然生まれるものではなく、さまざまな要素が重なり合いながら育っていくものなんだと、その街に立つたびに実感しました。

オランダでも同じです。国の規模は決して大きくありませんが、コンセルヴァトリウムを中心に若い音楽家が学び、街で演奏し、経験を積み、そのまま文化の一部になっていく。そこには挑戦する場所があり、失敗できる場所があり、それを次の世代へ受け渡していく流れがありました。

才能が育ち、挑戦し続けられる環境や仕組みがなければ、文化は継続していきません。

世界を回るなかで、そのことを何度も実感してきました。

だから日本にもそんな場所をつくりたいと思うようになったんです。

音楽が育つ場所を、つくりたかった

OPRCTというアイデアは、実は大学時代に描いていた「SWEET SOULビル」という落書きのような構想が始まりです。

授業中、ノートに「こんな場所があったらいいな」と描いていたのを今でも覚えています。

海外ツアーでさまざまなことを学ぶずっと前から、表現やクリエーションに関わる人たちにとって夢のような場所を作りたいと思っていました。

その原体験のひとつは、ブルーノート東京だったのかもしれません。世界中から素晴らしい音楽家が集まり、最高峰の演奏を届ける。その空気に触れるたびに、「いつか自分も、人が集まり、文化が育つ場所を作りたい」と思っていました。

創業してから空間づくりの仕事を始めたのも、今思えば、その構想へ向かう一歩だったように思います。

その一方で、その頃から一つだけ変わらなかった考えがあります。

僕にとって、レーベルとはレコードを作る会社ではありません。

アーティストが挑戦し続けられる環境をつくること。そのために何が必要かを考え続けることです。

だから、マーケティングにも力を入れてきました。海外とのネットワークも築いてきました。そして、ライブをする場所も必要でした。

昔から、作品をレコードやCD、データなどで聴くのはちろん大好きですが、音楽という体験が100%になるのはライブだと思っています。

人の心を本当に動かすのは、同じ空間で音を共有する時間だと体感してきました。

だからOPRCTをつくりました。

ライブがあり、イベントがあり、撮影があり、人が集まり、何かが生まれていく場所です。

でも、一つだけ足りないものがありました。

人が理由なく立ち寄れる場所です。

SWEET SOULビルというアイデアを描いていた大学時代から、不思議と一階はいつもカフェでした。

学生時代、さまざまなカフェにお世話になりました。家でもなく、学校でもなく、仕事場でもない。ただそこにいていい場所。誰でも自然に過ごせる、そんな空間を思い描くと、なぜか一階にはいつもカフェがありました。

イベントがある日だけではなく、撮影がある日だけでもない。

「少しコーヒーを飲もう。」
「誰かと話そう。」

そんな理由で自然に足を運べる場所です。本当はその場所も、最初の構想には入っていました。

でも、事業としての優先順位やビジネス上のハードル、そしてパンデミックの影響もあり、OPRCTのオープン時には実現できませんでした。

だからこそ、このタイミングでようやくhigher.をつくることができました。

コーヒーを飲みに来た人が音楽に出会う。展示を見に来た人が、新しい人と話す。偶然隣に座った人との会話から、新しいプロジェクトが始まる。

そんな小さな出来事が積み重なることで、音楽、空間、メディアという点だったものが、一つの循環になっていく。

higher.ができたことで、OPRCTはようやく僕が思い描いていたエコシステムに近づきました。。

実際にオープンしてみると、コーヒーだけ飲んで帰る人、本を読む人、仕事をする人、偶然居合わせた人同士で話し始める人。それぞれが思い思いの時間を過ごしています。

僕が大学時代に思い描いていた一階のカフェは、少しずつ現実になり始めています。

この場所には、そうした考えを形にしたものがたくさんあります。ベルリンでつくられるスピーカーを選んだことも、食材を選ぶ基準も、すべて「どうすれば人がより良い時間を過ごせるか」という問いから逆算して決めてきました。

その一つひとつの話は長くなるので、また別の記事で書こうと思います。

なぜ「higher.」という名前なのか

これまで会社やサービス、レーベルなど、さまざまな名前を考えてきました。

でも、今回の higher. は、その中でも一番難産だったかもしれません。

最初に決めていた名前は Conscious でした。

自分自身の内面やスピリット、アイデンティティに対して意識的であること。音楽も、ドリンクも、フードも、ファッションも、流されるのではなく、自分にとって本当に必要なものを選ぶ美学。その価値観を、この場所の名前に込めようと思っていました。

社内でもその名前で発表し、ドメインも取得しました。当時の僕は、この名前こそがこの場所を表していると思っていました。

でも、どこか違和感が残っていたんです。

後から振り返ると、僕に足りなかったのはオープンネスでした。

僕が志してきた音楽も、考え方も、決して誰にでも受け入れられるものではありません。それは独自性や先鋭性とも言える一方で、受け取る人を選んでしまう側面もあります。

Consciousという名前も、どこか同じ匂いを持っていました。

僕が本当に作りたかったのは、限られた人のための場所ではありませんでした。

音楽が好きな人も、そうでない人も。クリエイターも、近所に住んでいる人も。ふらっと立ち寄った人が自然と心地よく過ごせる、そんな開かれた場所でした。

だから、サービスイン直前に名前を変えることを決めました。

正直、かなり勇気のいる決断でした。すでにConsciousという名前でいろいろな準備が進んでいましたし、ロゴの制作も発注直前まで進んでいました。

「本当に変えるなら、これ以上ない名前じゃなければ意味がない。」

そう思っていた矢先、本当に最後の最後で、ひとつの言葉がふっと頭に浮かびました。

higher.

LIFESOUNDの中で、以前から何度も共有してきた考え方があります。

「僕たちは、互いを高め合うためにここに集っている。」

音楽も、仕事も、一人だけでは辿り着けない場所があります。

誰かと出会い、刺激を受け、ときには意見がぶつかりながら、自分一人では見えなかった景色が見えてくる。本気で何かをつくろうとすれば、摩擦が生まれることもあります。それでも一緒につくるのは、他者の存在によって自分も変わり、互いにより良い場所へ進めると信じているからです。

higher.という名前には、そんな「互いを高め合う」という願いを込めました。

ここでいう higher は、誰かより上に立つことでも、閉じた意味での「意識の高さ」でもありません。

違う背景を持つ人たちが自然に交わり、少しだけ視野が広がったり、心が軽くなったり、新しい何かを始めるきっかけを持ち帰ったりすること。

僕たちが敬愛してきたソウルミュージックには、人を高揚させる力があります。悲しみや痛みを抱えたままでも、音楽を聴いたあとには少しだけ前を向ける。愛や希望、どこかヘブンリーな感覚が、その音楽には宿っています。

その感覚は、音楽だけではありません。

誰かとの会話、初めて聴いた一曲、身体にやさしい食事、心地よい空間。その日ここで過ごした時間が、その人をほんの少しでも前向きにできたなら、それだけで十分だと思っています。

だからタグラインは A place for higher vibrations にしました。

そして、もう一つこだわったのが表記です。

HIGHER ではなく、higher.

そして最後にピリオドを付けたのにも理由があります。

人は、互いを高め合うために集う。

僕は、その考えをとてもシンプルだと思っています。だから余計な説明や議論は、もういらない。

この場所も、そういう場所であってほしい。そんな思いで、最後に静かにピリオドを打ちました。

あとは、この場所で起きる出来事が、その考えを少しずつ証明してくれたらいい。人と人が出会い、音楽と食を楽しみ、新しい会話や表現が生まれていく。

higher.は、そのための場所です。

ここまで話してきた「環境」や「仕組み」を、いちばん小さく、いちばん日常的な形に落とし込んだのが、この場所です。

そのタグラインの通り、ここを訪れた人が、来たときより少しだけ視点が広がったり、心が軽くなったり、新しい誰かと出会ったりする。そんな小さな変化が積み重なる場所でありたい。

コーヒーも、食事も、音楽も、空間も、そのすべてがそのためにあります。

だからhigher.では、コーヒーも、一杯を提供することだけが目的ではありません。

朝には HIGHER、昼には DAY DREAMING、そして雨の日には IN THE RAIN。

時間や天気によってブレンドを変えているのも、その日の気分や過ごし方まで含めて、この場所を楽しんでもらいたいと思ったからです。

特別なイベントがなくても、コーヒーを一杯飲む時間、隣に座った人との何気ない会話、その日たまたま流れていた一曲。そんな小さな積み重ねの先に、人が育ち、挑戦し、出会い続けられる環境ができていく。それが、僕がhigher.でつくりたかった「仕組み」です。

オープンして、見えてきたこと

オープンから約2週間。

僕が想像していた以上に、この場所では自然なコミュニケーションが生まれています。

以前の記事でも、

CommunicationからCollaborationへ、そしてCommunityが生まれ、Cultureになっていく。

そんな考えを書きました。

まだ始まったばかりですが、すでにいくつかのコラボレーションも動き始めています。

そして何より嬉しいのは、毎日のように足を運んでくださる方が少しずつ増えてきたことです。

近隣の方がコーヒーを飲みに立ち寄ってくださる。友人が別の友人を連れてきてくれる。

「昨日も来ました。」「また会いましたね。」

そんな何気ない会話が、毎日のように生まれています。

その光景を見るたびに、「これが僕たちの事業に足りなかった最後のピースだったんだ」と感じています。

ライブや撮影、イベントだけでは生まれない関係があります。

何気ない日常を共有することで少しずつ信頼が育ち、その先に新しいアイデアやコラボレーションが生まれていく。

僕がhigher.で本当に作りたかったのは、そんな日常です。

もちろん、この場所だけで文化が生まれるとは思っていません。

だからこそ、僕たち自身もイベントを企画し、人が出会うきっかけをつくりながら、この場所を少しずつ育てていきたいと思っています。

チャーチやコンセルヴァトリウムも、一日でできた場所ではありません。

人が集まり、学び、挑戦し、その積み重ねが文化になっていったはずです。

次に、つくりたい景色

higher.は、まだ始まったばかりです。

でも、僕の中では、その先にある景色も少しずつ見え始めています。

まずは、この場所を完成させること。

カフェに人が集まり、コミュニティが育ち、ライブには世界中からアーティストが集まる。地域の人たちと海外から訪れる音楽家やクリエイターが自然に交わり、この場所から新しい表現やプロジェクトが生まれていく。

OPRCTという一つのビル全体が、ひとつのエコシステムとして機能している。まずは、その姿を2〜3年のうちに実現したい。

higher.では、ライブだけではなく、日常の中で音楽をもっと深く味わえる機会もつくっていきたいと思っています。音楽をじっくり聴き、その背景にある物語や制作について言葉を交わすリスニングセッションも、その一つです。

アーティストやクリエイターが、自分の経験や技術、考え方を共有するセミナーやワークショップも開催していきます。完成した作品だけではなく、そこへ至る試行錯誤や失敗、考え方まで共有できる場所にしていきたいと考えています。

こうした小さな機会の積み重ねが、人の出会いや新しい挑戦につながり、やがてこの場所ならではの文化になっていくはずです。

そして、その先があります。

この場所で生まれたコミュニティやカルチャーを、今度は街へ、そしてもっと大きな場所へ広げていきたい。

ライブはもっと増やしたい。その先にはフェスティバルにも挑戦します。目指しているのはイベントを開催するだけではありません。人と人が出会い、音楽をきっかけに新しい関係が生まれ、文化が育っていく。higher.で育ててきた思想を、そのまま外へ持ち出したいと思っています。

日本のライブやイベントのあり方にも、まだ変えられる余地があると僕は信じています。チケットの仕組みも、人とのつながり方も、アーティストとの距離も。もっと文化が育ちやすい形があるはずです。

higher.は、その挑戦の終着点ではありません。これから始まる、もっと大きな挑戦の入口です。その入口に、ぜひ立ち会っていただけたら嬉しいです。

もしまだhigher.に来たことがなければ、ぜひ一度遊びに来てください。

流れている音楽も、その日淹れるコーヒーも、そこで交わされる会話も、毎日少しずつ違います。

何かを目的に来てもいいですし、何も目的がなくても大丈夫です。

何も目的を決めず、この場所で時間を過ごしてもらえたら嬉しいです。

それでは、higher.でお会いしましょう。

SPREAD REAL MUSIC.

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